なぜ金正恩は黒電話と呼ばれるのか?独特な髪型の真相と現在の変化
北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)総書記。日本のインターネット掲示板やSNS上において、彼の代名詞のように定着しているあだ名が「黒電話」です。ニュースで軍事パレードや外交演説の映像が流れるたび、X(旧Twitter)などのタイムラインでは「また黒電話がミサイルを撃った」「黒電話のフォルムが少し変わった?」といった書き込みが日常的に飛び交っています。
しかし、リアルタイムの歴史を知らない若い世代を中心に、「なぜ受話器の黒電話と呼ばれるようになったのか」「いつからその呼び名が定着したのか」という経緯を知らない読者も少なくありません。単なるネット上の悪口や風刺にとどまらず、あの異様なヘアスタイルには、北朝鮮という独裁国家が仕掛けた周到な権力継承プロパガンダと、祖父・金日成(キム・イルソン)主席の幻影を追う切実な政治的意図が隠されています。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:金正恩氏が「黒電話」と呼ばれる理由は、側頭部を極端に刈り上げ、トップを真横に張り出させた台形フォルムが昭和のダイヤル式受話器に酷似していたため。
- 要点2:公式には「覇気(ペギ)ヘア」と呼ばれ、20代で権力を継承した彼がカリスマ性を補うため、建国の父・金日成主席の若き日の姿を徹底的に模倣した政治的産物。
- 要点3:2020年代半ばから2026年現在にかけては、極端な台形から角が取れたナチュラルなオールバックへと移行し、白髪を隠さない「成熟した国家指導者」の演出へ変化している。
【発祥の真相】金正恩氏が「黒電話」と呼ばれる決定的な理由と元ネタ
金正恩氏がネット上で「黒電話」と呼ばれるようになった最大の理由は、頭頂部のボリュームと刈り上げのコントラストが、昭和時代の黒電話の受話器そのものに見えるからです。
このあだ名が本格的に広まったのは、父である金正日(キム・ジョンイル)総書記が死去し、金正恩体制が本格始動した2011年末から2013年頃にかけての時期でした。当時の2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のニュース速報板やVIP板において、テレビ画面に映し出された若き後継者の姿を見たネットユーザーが「受話器を頭に乗せているようにしか見えない」「昭和の黒電話を彷彿とさせる」と投稿したことが直接の元ネタとされています。
特に話題を呼んだのが、後頭部から側頭部にかけての極端な段差です。耳の上数センチまで青白く刈り上げられているのに対し、トップの黒髪は左右に大きくせり出し、真上や斜め上から俯瞰した際のアウトラインが、まさにダイヤル式黒電話の受話器の持ち手と受話口・送話口のラインに一致していました。一度そう見えてしまうと二度と黒電話以外のものに見えなくなるという「ゲシュタルト崩壊」的なインパクトも手伝い、ネットスラングとして爆発的なスピードで定着しました。
その後、2015年頃になると彼のスタイリングはさらに先鋭化し、横幅が頭蓋骨の幅を大きく超えるほどの台形へと進化。ネット上では「受話器がさらに大型化した」「新型モデルにマイナーチェンジした」などと大喜利状態になり、政治的な脅威を和らげる自虐的なユーモアとして、日本のネット文化に深く根付くことになりました。
北朝鮮公式の呼称は「覇気ヘア」?金日成主席を徹底模倣した政治的背景
日本国内では嘲笑の対象となったヘアスタイルですが、北朝鮮の国内プロパガンダにおいて、あの髪型は極めて神聖かつ重要な意味を持っています。北朝鮮の公式メディアや宣伝機関では、あの髪型を「覇気(ペギ)ヘア」あるいは「覇気あふれる野心的な頭髪」と位置づけていました。
そもそも、なぜ彼はあのような奇抜なシルエットを選んだのでしょうか。その真相は、祖父である金日成国家主席の徹底的な視覚的模倣にあります。
金正恩氏が後継者に指名された当時、彼はまだ20代半ばの若造に過ぎず、軍や党の長老たちを納得させる実績は皆無でした。さらに、父親である金正日氏は晩年、脳卒中で倒れた影響もあり、国民の間でカリスマ性が低下していた時期でもありました。そこで北朝鮮の宣伝扇動部が採用した戦略が、「父親(金正日)を飛び越え、国民から絶大な人気と敬愛を集めていた祖父(金日成)の生き写しを作る」という視覚作戦でした。
金日成氏が1930〜40年代に抗日パルチザンを率いていた青年期から、北朝鮮を建国した直後の30代前半にかけて、まさにサイドを刈り上げてオールバックにした髪型をしていました。金正恩氏は髪型だけでなく、黒の人民服、歩き方、拍手の仕方、さらには体重を意図的に増やして恰幅の良い体型を作ることまで、祖父の姿を完全にトレースしたのです。平壌の高齢層の中には、初めて金正恩氏の姿を見た際、「首領様(金日成)が生きて戻ってきた」と涙を流した市民もいたと報じられています。
【データ比較】時代とともに肥大化?金正恩氏の髪型・ビジュアル変遷史
金正恩氏のヘアスタイルは、一見するとずっと同じように見えますが、国内外の情勢や本人の権力基盤の安定度に応じて明確に変化を遂げてきました。韓国国家情報院の分析データや各年代の労働新聞の公式写真を照合すると、以下のような進化のプロセスが浮かび上がってきます。
| 年代・時期 | ヘアスタイルの特徴・数値的変化 | 当時の政治的背景・狙い | ネット上の反応・分析評価 |
|---|---|---|---|
| 2011〜2012年 (後継直後・初期) | サイドの刈り上げは標準的。トップの横幅比率は頭蓋骨に対して約1.1倍と控えめ。 | 金正日総書記の急死に伴う緊急登板。祖父・金日成氏の若き日を意識した初々しい造形。 | 「妙な髪型だがまだ普通」という見方が大勢。黒電話という呼称が一部で誕生し始めた黎明期。 |
| 2014〜2016年 (覇気ヘア完成期) | サイドの刈り上げ位置が側頭部高くまで上昇。トップの横幅が頭蓋骨比1.3〜1.4倍に極大化。 | 張成沢(チャン・ソンテク)氏処刑など恐怖政治で権力を掌握。独裁者としての「威圧感と覇気」を過剰演出。 | 黒電話あだ名の全盛期。「台形ヘア」「受話器そのもの」として日本・海外のSNSで大拡散。 |
| 2018〜2019年 (首脳外交・安定期) | 極端な角が取れ、トップの毛流れがなだらかな流線型に。整髪料の光沢感がやや減少。 | 米朝首脳会談や南北首脳会談など「普通の国際国家の指導者」として振る舞う必要性が発生。 | 「受話器の角が丸くなった」「意外と整えている」と西側メディアでもプロの理容師による分析が相次ぐ。 |
| 2024〜2026年 (現在・成熟期) | 白髪をあえて黒染めせず自然に残す。頭頂部の高さを抑え、ナチュラルなオールバックへ。 | 執権10年以上が経過し権力基盤が盤石化。娘・ジュエ氏の同伴も含め「貫禄ある父親・国家の家長」へ移行。 | 「黒電話感が薄れた」「普通のおじさん指導者に見える」と驚きの声。貫禄と実利を重視したスタイル。 |
このようにデータを時系列で追うと、権力が不安定だった時期ほど「祖父の記号」に依存して髪型を極端に誇張し、権力が盤石になるにつれて自然体へと軟化させている権力者の心理が透けて見えます。
プロの理容師が解明する「金正恩ヘア」のセット方法と驚きの構造
あの幾何学的な台形ヘアは、自然に髪を伸ばしただけでは絶対に成立しません。韓国の脱北者団体や西側のトップスタイリストの検証によると、極めて特殊かつ高度な理容技術が使われています。
ベースとなっているのは、美容業界でいう「アンダーカット(ディスコネクション・ツーブロック)」の極端なバリエーションです。通常のツーブロックでは刈り上げの上に上の髪を自然に被せますが、金正恩氏のスタイルは被せる毛先をすべて浮かせ、完全に独立した「庇(ひさし)」のような構造を作っています。
スタイリングの具体的な手順は以下の通りです。
- 精密なバリカンワーク:耳周りから側頭部、後頭部にかけてをミリ単位のグラデーションで刈り上げる。境界線は頭頂部のカーブよりかなり高い位置に設定。
- ハードなブロー:洗髪後、濡れた状態のトップの髪に強力なボリュームアップフォームを揉み込み、ロールブラシとドライヤーの熱を使って根元を真上に向かって極限まで立ち上げる。
- 左右への水平テンション:立ち上がった髪を真ん中で分けず、後ろへ流しながらも、左右の側面に「張り出し」を作るよう手ぐしとブラシで水平方向に成形。
- 超強力スプレーによる固着:最後に、風速数十メートルの強風が吹く屋外演説でも1ミリも乱れないよう、工業用レベルに硬化する強力なホールドスプレーを満遍なく吹き付けて完全固定する。
平壌の護衛司令部には、金正恩氏専属の理髪師・美容チームが24時間待機しているとされています。かつて海外の取材陣の前で演説した際、強い横風が吹いてもトップの髪がヘルメットのように一塊のまま微動だにしなかった映像は、理容関係者の間でも「驚異的なキープ力」として大きな話題になりました。
【海外の反応】世界はどう見たか?トランプ氏の弄りから欧米メディアの風刺まで
日本で「黒電話」と呼ばれた彼の髪型ですが、海外でも同様に格好の風刺の標的となってきました。
英語圏のメディアやSNSでは、その特徴的な幾何学的フォルムから「Trapezoid Hair(台形ヘア)」、あるいは映画のキャラクターに例えて「Dr. Evil Hair」などと呼ばれて親しまれました。ドナルド・トランプ前米大統領がかつて金正恩氏を「リトル・ロケットマン」と呼んで挑発した際、米国の風刺番組『サタデー・ナイト・ライブ』などでは、頭上に巨大な四角いカツラを載せたモノマネが定番となり、世界中でミーム(Net Meme)として消費されました。
一方、隣国の中国では事情が少し異なります。中国のネット空間(Weiboなど)では、かつて金正恩氏を「金三胖(キム家の3代目の太っちょ)」と呼ぶスラングが爆発的に流行しましたが、北朝鮮政府からの強い抗議を受けた中国当局がこの単語を一斉に検索ブロック・検閲しました。その網をかいくぐる隠語として、髪型や体型を揶揄する様々な記号が生み出されるなど、情報統制とのいたちごっこが繰り広げられた歴史があります。
しかし、欧米の政治評論家の中には「西洋の価値観で彼の髪型を嘲笑するのは、北朝鮮のプロパガンダの本質を見誤る危険がある」と警鐘を鳴らす専門家も少なくありませんでした。西側から見れば奇妙なピエロに見えたとしても、北朝鮮国内の住民にとっては「偉大な首領様の再来」として恐怖と忠誠心を呼び起こす十分な視覚的装置として機能していたからです。
【プロの結論】黒電話ヘアを再現して良い人・絶対に避けるべき人の条件
SNSやハロウィン、宴会芸などのパロディとして「一度あの髪型を再現してみたい」と考える人もいるかもしれません。しかし、ヘアスタイルの設計論および社会生活の観点から見ると、このスタイルには極めて明確な向き不向きが存在します。
この髪型が向いている人(挑戦しても許される条件)
- 圧倒的な丸顔またはエラ張り顔の人:横幅を強調する台形ヘアは、もともと横幅のある骨格でないとバランスが取れず、細面の人がやると頭だけが浮いてしまいます。
- ハロウィンやコントなど、一発芸の場に限定できる人:短時間のインパクト重視であれば、ツーブロック用のウィッグと強力ジェルを使えば爆笑をかっさらえます。
- 毎日30分以上のセット時間を惜しまない人:あの形状を一日中キープするには、プロ並みのブロー技術と大量のスタイリング剤の消費が必須です。
絶対に避けるべき人(実生活で真似してはいけない条件)
- 一般的な企業に勤めるビジネスパーソン:日本のオフィス環境において、頭頂部が真横に突き出たスタイルは「常識を疑われるリスク」しかありません。
- 頭頂部の毛量に不安がある人:根元を真上に引っ張り上げて大量のスプレーで固めるセット方法は、毛根と頭皮に甚大なダメージを与えます。
- スタイリングを数分で済ませたい人:手入れを怠った瞬間、ただの「伸び散らかして寝癖がついた奇妙なツーブロック」へと成り下がります。
【金正恩 黒 電話】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:なぜ「黒電話」と呼ばれ始めたのですか?最初のきっかけは?
A1:2011年〜2013年頃、日本のネット掲示板(5ちゃんねる等)で、彼の髪型が「昭和のダイヤル式黒電話の受話器を頭に乗せたシルエット」にそっくりだと話題になったことがきっかけです。特に上から見下ろした際や後頭部の四角いフォルムが受話器の形状と完全に一致していたため、爆発的にあだ名として定着しました。
Q2:北朝鮮の一般男性も金正恩氏と同じ髪型にしなければならないのですか?
A2:過去に「国民全員に同じ髪型が強制された」というセンセーショナルな海外報道がありましたが、これは誤報です。北朝鮮国内には「社会主義的生活様式に合った頭髪基準」として男女それぞれ十数種類の公認ヘアスタイルが存在しますが、最高指導者とまったく同じ髪型をすることは、むしろ「不敬」「畏れ多い行為」とみなされるため、一般市民が完全に同じセットをすることは推奨されていません。
Q3:現在の金正恩氏の髪型は昔と比べてどう変わっていますか?
A3:2020年代半ばから2026年現在にかけては、かつてのような極端な台形や真横への張り出しは大幅に抑えられています。角が取れた緩やかなオールバックスタイルになっており、白髪も隠さず自然に見せるなど、若さのアピールから「貫禄と落ち着きのある成熟した指導者」のイメージへとシフトしています。
まとめ:アイコン化されたヘアスタイルが物語る独裁国家の権力基盤
日本のネット空間において、すっかり親しみ(あるいは冷笑)を込めたスラングとして定着した「黒電話」。そのユーモラスな響きの裏側には、血統の正統性を国民に信じ込ませるために祖父・金日成氏の姿を完コピした、独裁国家ならではの冷徹な政治計算が存在していました。
そして2026年を迎えた現在、彼の髪型から極端な角が取れ、自然なオールバックへと移行している事実は、もはや祖父の幻影に頼らなくとも権力基盤が盤石になったという自信の表れでもあります。ひとつのヘアスタイルを定点観測するだけでも、閉ざされた独裁国家の権力構造とプロパガンダの変遷が生々しく浮かび上がってきます。 (出典: 金正恩 黒 電話(Yahoo!ニュース))